◎現地からのメッセージ

: いしのま★キッチン

やじるし

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価値観の違いに向き合いながら、みんなでつくるレストラン

津波で浸水したことが信じられないほど明るくきれいな「いしのま★キッチン」の店内。子どもたちがつくった人形や手づくりの看板などが温かい雰囲気を醸し出している

津波で浸水したことが信じられないほど明るくきれいな「いしのま★キッチン」の店内。子どもたちがつくった人形や手づくりの看板などが温かい雰囲気を醸し出している

  • ぐるぐる応援団
  • 代表 鹿島 美織(かしま・みおり)氏
  • 「いしのま★キッチン」
  • ◎ランチスタッフ
  • 菊地 麻由(きくち・まゆ)さん 松本 奈津希(まつもと・なつき)さん
  • 佐藤 恵子(さとう・けいこ)さん 千田 たきえ(ちだ・たきえ)さん
  • 奥津 京子(おくつ・きょうこ)さん 佐藤 貴子(さとう・たかこ)さん
  • ◎カフェスタッフ
  • 熱海 真紀(あつみ・まき)さん 笹田 優(ささだ・ゆう)さん
  • 神山 由香(かみやま・ゆか)さん 外 まゆみ(ほか・まゆみ)さん

市役所が入居するJR石巻駅前のビルに、地元の女性たちが手づくり料理を提供するレストラン「いしのま★キッチン」がある。2012年4月にオープンし、被災した女性たちが切り盛りしているが、ここまでの道のりはけっして順風満帆ではなかった。試行錯誤の末、ようやくたどり着いた今とこれからの展望とは?

大勢で食べるごはんの味

お弁当を買いに来たお客さまに対応する菊地麻由さん。「冷凍食品は一切使っていません。すべて手づくりですよ」と胸を張る

お弁当を買いに来たお客さまに対応する菊地麻由さん。「冷凍食品は一切使っていません。すべて手づくりですよ」と胸を張る

「日替わり4つ入ります!」。よく通る女性の声がホールに響く。カウンターの上に山積みだったお弁当は、正午からたった10分ほどでなくなった。「お客さまを待たせてはいけない」と厨房では女性たちがお弁当と定食づくりに奮闘している。

ここは手づくり料理を提供するレストラン「いしのま★キッチン」。日替わり定食は魚と肉の2種類あり、同じメニューをお弁当にしてテイクアウトもできるようにしている。店内で食べる人、オフィスや自宅に持ち帰る人が行列をつくっていた。

運営は石巻市を拠点とする「ぐるぐる応援団」。震災後にボランティアとしてやってきた鹿島美織さんが代表を務める。東京で仕事をして、石巻と往復しながら、被災したお母さんたち数名と「いしのま★キッチン」をはじめた。そのきっかけは、「ぐるぐる応援団」が行なっていたボランティアの人たちと仮設住宅の人たちが一緒にごはんを食べる「団地ごはん」だった。

鹿島さんは「ボランティアとして炊き出しに来たはずなのに、皆が避難所を出て仮設住宅に移るようになってくると、逆に私たちがごはんを食べさせてもらっていたのです」と振り返る。「あれ、逆じゃない?」と思いつつ、つくっていただくごはんの味は格別だった。「被災したばかりで食材は限られていたのに、申し訳ないと思うくらいにたくさんの料理をご馳走になった」と鹿島さんは言う。

親しくなったお母さんに話を聞き、「大家族で暮らしていたので1人分だけつくることに慣れていない」、「仮設住宅では狭くて家族が一緒に住めないし、たった1人でごはんを食べるのは味気ない」ことなどを知った。

「じゃあ、みんなでごはんをつくって食べたらいいんじゃないか」。鹿島さんは、「ボランティアの人たち向けに食事をつくってください」とお願いした。すると仮設住宅に住む人が5人ほど集まって、いろいろな料理をつくり振る舞ってくれた。

「すごく温かい会になったんです。ボランティアのみんなも喜んでいましたし、つくったお母さん達も輝いていました。『震災直後は、ありがとうと言うばかりだったから、他の人にありがとうと言われると本当に嬉しい』そういう地元の方の顔を見て、『つくることにも食べることにも、とても大切な役割がある』と思いました」と鹿島さんは言う。

みんなで店をやろう!

東京と石巻を往復しながら「いしのま★キッチン」を運営する「ぐるぐる応援団」代表の鹿島美織さん。「ここで得た体験は東京での仕事にも生きている」という

東京と石巻を往復しながら「いしのま★キッチン」を運営する「ぐるぐる応援団」代表の鹿島美織さん。「ここで得た体験は東京での仕事にも生きている」という

「団地ごはん」の食材は、はじめ「ぐるぐる応援団」が用意していたが、みんなからの発案で1回数百円の参加費を集めるようになった。定例化をめざして回を重ねるうちに、100人規模の食事を用意するときにテキパキと動き、他の人に指示もできる人たちがいることに気付く。震災前に飲食業を営んでいた人たちだった。「団地ごはん」の中で鹿島さんは、石巻の食材が豊かなこと、住民1人ひとりの生活力がきわめて高いことを知る。大卒でリクルートに勤め、ディレクターとしてさまざまなクライアントと仕事をしてきたが、仮設住宅の人たちの生活者としてのスキルの高さに舌を巻いた。「『団地ごはん』に向けて食材を準備している私達を、見るに見かねて、という感じで手伝ってくれたのですが手際がよくて……。私たちが素人だったのがよかったのかもしれません」と笑う。

ある日、鹿島さんが何気なく「ラーメンが食べたいなー」と言うと、1人の女性が泣き出した。その女性はラーメン店を営んでいたが、津波で店を流されたのだ。「もう二度とラーメンはつくれないんです」と涙に暮れる女性を見て、鹿島さんは「よし、店をやろう!」と決意する。それが2011年の12月だった。

場所を探していたところ今のオーナーと出会い、立ち上げたばかりの団体に思い切ってテナントを貸してくれた。オープン当時は寄付で食器を集め、被災した飲食店の人たちがお店で無事だった機材を提供してくれたり、また、子どもたちが看板をつくってくれたりと本当の手づくりでのスタートとなった。それから半年経ち、業務用の調理器具の購入や被災して根腐れした壁を修繕する材料費を日本初のクラウドファンディングサービスである「READYFOR」(レディーフォー)※1で調達した。お店の改装は、ボランティアの皆さんに協力してもらい行なったが、その中心となったのが乃村工藝社※2の社員で構成するボランティア組織だ。こうして各地からの支援を受けて、手づくりで誕生したのが「いしのま★キッチン」だ。

閉めるのか、続けるのか? スタッフの意見のぶつかり合い

ランチタイムが終わった後にスタッフみんなで行なっているミーティング。ここでの決定が「いしのま★キッチン」の運営に生かされている

ランチタイムが終わった後にスタッフみんなで行なっているミーティング。ここでの決定が「いしのま★キッチン」の運営に生かされている

2012年4月7日にスタートした「いしのま★キッチン」。しかし、最初からすべてうまくいったわけではない。鹿島さんには飲食店を経営した経験がない。しかも、東京での仕事もあるのでずっと店にいることもできない。その遠慮もあってなんとなく地元のメンバーに任せていたら、初期の頃は1カ月で200万円近い赤字になってしまった。原価率が67%※3になった月もあった。鹿島さんは「現場にいないのに経営の数値だけは気になる」という、もやもやした思いを抱えていた。

なんとか営業を続けていたが、2013年4月に体調不良などさまざまな理由で、3人が同時に抜けた。このとき「店を閉めることを真剣に考えた」と鹿島さんは言う。

そもそも、リクルートでは徹夜も厭わずバリバリ働いていた鹿島さんと、家族との時間を大切にするがゆえに夜遅くまで働くことがむずかしいスタッフとの間には働き方に対するわだかまりがあった。「家族を大切にする働き方があることを私は知りませんでしたし、飲食店の現場のことも知りませんでした。それを理解するまで時間がかかったんです」と鹿島さんは振り返る。時間帯によってスタッフの人数を変えるシフト制を提案したが、なかなか受け入れてもらえず意見をぶつけ合うこともあった。

スタッフの人たちとの色々なギャップを感じる中で起きた、3名の引退と卒業。「もう、続けられない」と弱気になった。そんな鹿島さんを一喝したのは、普段は大人しい菊地麻由さんだった。「やめるなんて言わないで。私らには生活がかかっているんですから」。他のスタッフも「弱気になるな、店をはじめたからには、続ける責任がある。待っている人たちがいるんだから」と続けた。「残ったスタッフで仕事を分担しましょう」と菊地さんが提案し、価値観の違う者同士が店を続けるために互いに歩み寄った。

今は、メニュー作成を一ヶ月ごとの当番制にし、店を仕切るリーダーも日替わりにした。仕事の終わりにはミーティングを行ない、原価率の報告、料理の味付けや量に関する意見交換をし、直すべきところはみんなで解決するようにしている。それぞれの立場を理解できるようしたことは大きかった。何か問題があったときは、責任を人に押し付けるのではなく、みんなで考えるようにしている。

さまざまな年代が集う場所に

(上)カフェスタッフの千葉沙織さん。新たに水出しコーヒーの器具を入れ、コーヒーゼリーなどを提供している(下)オープン当時のカフェスタッフ。左から神山由香さん、笹田優さん

(上)カフェスタッフの千葉沙織さん。新たに水出しコーヒーの器具を入れ、コーヒーゼリーなどを提供している

(下)オープン当時のカフェスタッフ。左から神山由香さん、笹田優さん

「いしのま★キッチン」は、2013年11月からカフェをオープン。今は千葉沙織さんが担当しているが、オープン当初は笹田優さんと神山由佳さんが関わってくれた。現在、笹田さんは本来の所属団体に戻り、神山さんは自分のカフェをオープンさせている。

ホットジンジャー、梅ジュース、練乳入りミルク、ほろ苦プリン、水出しコーヒーゼリーなど「手づくり」にこだわったメニューをそろえている。最近は地元生産者ともつながり、放し飼いの鶏の卵を使うなど「地元食材」にもこだわったメニューも提供できるようになった。カフェタイムは、無料の休憩所としても提供しており、さまざまな年代の人たちが集うコミュニティースペースとなっている。

「いしのま★キッチン」の今の課題は、事業として継続するしくみをいかに築くかにある。鹿島さんは「今はそのベースをつくっているところです」と言う。NPOとしていくつか構えていた事務所や倉庫を1カ所に集約してコスト削減をしつつ、カフェも開いた。経営はたいへんそうだが、鹿島さんは明るく生き生きと立ち回り、みんなと言葉を交わす。「風土も生き方も違う人たちと一緒に働くことで悩んだこともあったけれど、見方がとても広がりました」と語る。「異なる価値観や働き方を目の当たりにして視野が広がり、今も日々たくさんのことを学んでいる」そうだ。

何度もつまずき、転びそうになりながら、「いしのま★キッチン」は今日も元気にお客さまを迎えている。

※1 クラウドファンディングとは、インターネットを介して不特定多数の個人から資金(支援金)を集めるサービスのこと。READYFOR(レディーフォー)は、2011年4月のオープン以降、約476プロジェクトの資金調達を行い、これまで合計で3万2千人から約3.8億円の支援を集めている(2014年1月31日現在)

※2 博物館などの展示空間や博覧会などのイベント空間、商業空間などの企画・デザインや施工を手がける専門会社

※3 一般的には飲食店の原価率は30%程度に抑えるべきといわれる

「いしのま★キッチン」を運営する皆さん。左から菊地さん、佐藤さん、鹿島さん、村田さん、熱海さん、奥津さん、岡本さん、千葉さん

「いしのま★キッチン」を運営する皆さん。左から菊地さん、佐藤さん、鹿島さん、村田さん、熱海さん、奥津さん、岡本さん、千葉さん

【営業時間】
11:00〜18:30(不定休)
ランチタイム 11:00〜14:00
カフェタイム 14:30〜18:30
  (ラストオーダー18:00)

※カフェタイム中は無料休憩所としても利用できる

2015年1月取材