◎現地からのメッセージ

: おだがいさま工房

やじるし

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郡山市にある「おだがいさま工房」入り口にて工房のメンバー(前列6名)と「おだがいさまセンター」のスタッフ(後列2名)と共に

郡山市にある「おだがいさま工房」入り口にて工房のメンバー(前列6名)と「おだがいさまセンター」のスタッフ(後列2名)と共に

草木染めに込めるふるさとへの思い

  • おだがいさま工房
  • 代表/職人 小野 耕一(おの・こういち)氏
  • 社会福祉法人 富岡町社会福祉協議会
  • 富岡町生活復興支援センター(おだがいさまセンター)
  • 遠藤 絹子(えんどう・きぬこ)氏

震災によってふるさとを離れ、避難生活を余儀なくされている福島県富岡町の人々。しかし、郡山市といわき市に設立された「おだがいさま工房」では、草木染めから布製品をつくる作業を通じて、それぞれが生きがいを見出している。郡山市の工房を訪ね、話をうかがった。

生きがいや希望を見出すために

「富岡ふるさとこころ染」の製品を手にするおだがいさま工房の代表・小野耕一さん

「富岡ふるさとこころ染」の製品を手にするおだがいさま工房の代表・小野耕一さん

夏は浜から涼しい風が吹き、冬はめったに雪が降らないふるさとを離れ、全国47都道府県に分散して避難している富岡町の人々。慣れない土地での生活は苦労も少なくない。

町民のおよそ3000人が暮らす郡山市に、2012年7月7日、草木染めの工房「おだがいさま工房」が設立された。避難生活を送る富岡町の人たちに生きがいや希望を持ってもらおうと、「社会福祉法人 富岡町社会福祉協議会」が福島県緊急雇用創出基金事業の補助金を用いて設立したものだ。

「おだがいさま工房」を運営する「富岡町生活復興支援センター」(以下、おだがいさまセンター)の遠藤絹子さんは、町民が避難所から仮設住宅や借り上げ住宅に移るタイミングで、新しいコミュニティ支援が必要だったと振り返る。「おたがいさま」という心持ちで人間らしい生活を取り戻そうと、まずは「おだがいさまセンター」を始動。その後、福島県に「震災復興に関する高齢者等のサポート拠点」として申請し、およそ半年後に「おだがいさま工房」を立ち上げる。「染め」にはたくさんの水を使うため、一般の事務所より大きめの給排水設備が整った飲食店の空き店舗を確保するなど、当時の担当者は準備に駆け回ったという。

「おだがいさま工房」の代表を務める小野耕一さんは、 開所が決まって真っ先に手を挙げメンバーになった。スタート当初は30人ほどメンバーがいたそうだが今は7人。週4日、9時から16時まで作業を続けている。小野さんはみんなから「親方」と呼ばれているので、てっきり経験者だと思ったが「いやいや、ずぶの素人ですよ。男性が私だけだからいつのまにかそう呼ばれるようになっただけで…」と笑いを誘った。

富岡町の風景を染め物で残す

(写真:上)郡山市内のホテルが「おだがいさま工房」に依頼する女性向けアメニティグッズセット。ハンカチの染め色、そして包み方がきれいだと評判だ

(写真:下)小野さんが型をつくった鯉の染め物。未経験の人たちが、たった2年でこれほどの腕前になったことに周囲の人たちも驚いている

(写真:上)郡山市内のホテルが「おだがいさま工房」に依頼する女性向けアメニティグッズセット。ハンカチの染め色、そして包み方がきれいだと評判だ
(写真:下)小野さんが型をつくった鯉の染め物。未経験の人たちが、たった2年でこれほどの腕前になったことに周囲の人たちも驚いている

小野さんたちは、郡山市の工房まで高速道路を利用しても1時間以上かかる伊達市から週に1回指導に訪れる講師に、染め、織り、仕立てを、文字通りイチから学んだ。講師は厳しかった。朝から夕方までびっしり指導するだけでなく、翌週までにやっておくべき課題を1日単位で用意して帰った。すべてが未経験のことばかり。なかなか覚えられないことも多かった。「もう体で覚えるしかなかったよ」と小野さんは笑う。

最初に取り組んだのはセイタカアワダチソウの草木染め。これが思いがけずきれいに染まった。「『こんなにきれいな色が出るんだ』と感心しました」と言う小野さん。厳しかったけれど、慣れてくるにつれてだんだん楽しくなってきた。道を歩いていて見つけた草花を「染めに使えるんじゃないの?」と各自が工房に持ち寄るようにもなった。

メンバーは皆、仮設住宅やみなし仮設住宅に住んでいる。もとの住まいが帰宅困難区域に指定されている人も多い。いつ帰れるか見通しがつかない中、「おだがいさま工房」は心の支えになった。同じ境遇の仲間がいる。ふとしたときに駆られる不安から、染めや織りのことを考えると逃れられる。心が休まる。孤立しがちな避難生活の中で、「おだがいさまセンター」の人たちが願ったとおり、「おだがいさま工房」が新しいコミュニティをつくる役割を果たしたのだ。

講師の指導のもと、小野さんたちは「富岡ふるさとこころ染」というオリジナル製品を考案した。自然の草木から染めて織り、仕立てた製品は、ハンカチからショール、ポーチ、カバン、トートバッグ、ショルダーバッグなど多岐にわたるが、そのすべてが「富岡ふるさとこころ染」だ。富岡町には山があり、海がある。特に桜は町民の自慢とする町のシンボルだ。2.5kmもの桜のトンネルの下では、毎年祭りが開かれていた。戻れないふるさとの景色を布製品として表現し、伝えていこう――その思いから生まれている。講師の指導は2014年3月で終了したが、自分たちだけではわからないことは、電話で指導を仰ぎ取り組んでいる。

郡山市の工房開設からおよそ1年後の2013年9月26日、いわき市に「おだがいさま工房IWAKI」がオープンした。郡山市では草木染めや藍染めなどの染めと裂織(さきおり)※1と仕立てを行ない、いわき市では10名の研修生がさをり織り※2と仕立てを担当。両拠点のメンバーは2カ月に1回、交互に行き来して交流を欠かさない。

事業の最終年度を迎えて

「おだがいさま工房」の設立経緯について語る「社会福祉法人 富岡町社会福祉協議会 富岡町生活復興支援センター」(おだがいさまセンター)の遠藤絹子さん

「おだがいさま工房」の設立経緯について語る「社会福祉法人 富岡町社会福祉協議会 富岡町生活復興支援センター」(おだがいさまセンター)の遠藤絹子さん

「仮設住宅に住む富岡町の人に『あんたたち、できすぎだよ!』とよく冷やかされるんです」と小野さんは照れくさそうに言う。これほどの作品をつくり上げる技術を修得するのに、普通なら5年から10年かかるところ、2年ほどで到達したからだ。

その証の1つとして、郡山市内のホテルから定期的に作業を依頼されていることが挙げられる。まず、ホテル側から支給された白いハンカチを桜の花びらが舞うきれいなピンク色に染める。それにシャンプーやリンスなどのアメニティグッズを包んで結び、納品するのだ。包み方は、おだがいさま工房のメンバーから「こうするときれいに見えますよ」とホテル側に提案して採用された方法。女性客へのプレゼントとしてホテル側は重宝している。

これからの事については未知のものであり、悩みながらもメンバーの頭の中には「次はああいうものをつくりたい」「こんなのはどうかな」と「富岡ふるさとこころ染」のアイディアが次々に湧き出ている。

※1 古くなった布を細かく裂いて、麻糸などと織り上げる

※2 1972年に城みさを氏が生み出した機織りの1種。色彩や素材、織り方に制約がなく発想を生かせる

藍染め用の型を切り抜くメンバー。失敗したらまたイチからやり直し。声をかけるのがはばかられるほどの緊張感だ

藍染め用の型を切り抜くメンバー。失敗したらまたイチからやり直し。声をかけるのがはばかられるほどの緊張感だ

藍染めの工程の1つである「糊置き」に取り組む小野さん。切り抜いてつくった型にまんべんなく糊を広げたあと、ずれないように型を外す

藍染めの工程の1つである「糊置き」に取り組む小野さん。切り抜いてつくった型にまんべんなく糊を広げたあと、ずれないように型を外す

2014年7月取材