火力発電所の燃料荷役と燃料の輸入代行業務等により安定供給を支える東北ポートサービス。貨物のセキュリティ管理と法令遵守(コンプライアンス)の体制が整備された事業者に対し、税関手続の緩和・簡素化等を提供するAEO制度に基づく「特例輸入者」の承認を受けるなど、業務の高度化に向け新たなチャレンジを続けています。電力会社関連企業初となる「特例輸入者」の承認取得に挑戦した経緯や思いを伺いました。
東北ポートサービスは、「安全確実な燃料荷役を通じて電力・ガスの安定供給を支えよう」の経営理念に基づき、燃料の輸入代行業務や火力発電所の燃料荷役および関連設備の運転・保守業務等において、社会から信頼され、お客さまから選択される質の高い業務を追求しています。
企業理念
荷役とは、物流過程におけるモノの取り扱いに関する作業の総称のことで、東北ポートサービスが担う燃料荷役では、火力発電に必要とされる石炭やLNG、バイオマスなど、燃料の船舶から荷揚げ、仕分け管理、発電所などへの運搬業務などを行っています。また、能代火力発電所においては、石炭を積載した大型船舶の入港を自社のタグボートでサポートしています。
能代火力発電所で石炭運搬船の大型船をエスコートするタグボート
火力発電所が電気を作るために欠かせない燃料は大型船舶にて海外から輸入していることから、輸入船がスケジュール通りに運航しているか、トラブルは発生していないかなど、世界情勢も踏まえながら常に運航状況の確認を行っています。また、燃料荷役作業は天候に影響されるため、人員配置の見直しや停泊中のサポート体制など、多岐にわたる業務を柔軟に対応することで、社員一丸で安定供給に努めています。
燃料荷役業務に加え、収益のさらなる柱として近年力を入れているのが、輸入代行業務です。輸入代行業務とは、海外から燃料を輸入する際に、専門的な知識を活かし、輸入手続きや物流手配、通関手続きなどを代行するもので、東北ポートサービスでは、東北電力の各火力発電所、相馬共同火力、酒田共同火力における発電用燃料の輸入代行業務を担っています。
この輸入代行業務において、業務品質のさらなる向上やコスト削減を目指すことを目的に、輸入代行チームでは、AEO制度に基づく「特例輸入者」の承認を取得しました。承認取得の準備に費やした時間は、およそ3年。2021年に掲げた中期計画で「特例輸入者の承認取得」を明記し、取り組みを進めました。
「最初は、社内の輸入代行業務の課題と、特例輸入者の承認取得で得られるメリットを整理することから始まりました」と輸入代行チームの安田主任は話します。特例輸入者の承認を受けるためには、セキュリティ管理とコンプライアンス体制が整備されていることが条件となります。東北ポートサービスではほとんどの事業所が火力発電所構内にあるため、セキュリティに関しては条件を満たしていたものの、会社としては大幅なルール整備が必要となりました。「コンプライアンス(関税法等の遵守)に関しては、既存の基準で条件を満たせるものがほとんどなく、総括管理部門、監査部門、事業部門それぞれで基準を作成する必要があり、ルールの整備や内部検査にかなりの時間を費やしました」と安田主任は振り返ります。体制の整備や申請のため、AEO制度を承認・認定する税関との窓口を安田主任が努め、小笠原さんなどのメンバーがそれぞれの経験を生かして調査や修正にあたり、2024年5月に承認を取得。5月15日には横浜税関で承認証書交付式が開催され、小野誠彦取締役社長に承認証書が交付されました。
特例輸入者の承認を得たことで、さまざまなメリットにつながったと小笠原さんは話します。「大きなメリットのひとつとして、輸入申告をする税関を自由に選べるようになったことがあげられます。これまでは貨物の蔵置場所を管轄する税関に申告する必要があり、東北・新潟各地の営業所員の協力を得て輸入申告を行ってきました。しかし、特例輸入者の承認を得たことで、仙台の本店で一括して管理・申告することができるため、業務の効率化につながっていると感じています」。
電力会社関連企業として初の承認となりましたが、そのことについて安田主任は「最近では当社が取得したことで興味を持つ企業も増えたようです」と話します。
ワンチームでさまざまな課題を乗り越える東北ポートサービス本店内
輸入代行業務では、海外の企業と直接連絡を取り合う機会もあるため、安田主任や小笠原さんも会社のサポートを受けながら、これまでも業務と並行して語学力の向上に努めてきました。
また、小笠原さんは昨年、資格取得のサポート制度を利用して難関の国家資格である通関士を取得しました。通関士は、関税の計算や輸出入データの処理・管理など、貿易の際に行政に対する必要な手続きや申請を行うもので、東北ポートサービスでは小笠原さんを含め6名が取得しています。「より深い知識を得て業務の幅を広げたい」と資格取得に挑戦した小笠原さんは、約半年間をかけてテキストや過去問題集に取り組み、「資格取得で身に付けた知識は、業務のさまざまな場面で役立っています」と話します。
今回の特例輸入者の承認を受け安田主任は、「AEO制度には、我々が承認を受けた特例輸入者のほかに、特定輸出者や、認定通関業者など6制度があります。今回の取り組みで体制が整ったので、他の承認の取得も目指し、新しいビジネスにチャレンジしていきたいと考えています」と次の展開を見据えます。
小笠原さんも、「取得した通関士の資格を生かして、業務をブラッシュアップし、キャリアを築いていきたいです」と話します。
苦労の末成し遂げた特例輸入者の承認取得により、国際物流におけるセキュリティ確保と円滑化の両立を図り、業務を大きく効率化したことで新たな道が開けた東北ポートサービス。今後も燃料荷役と輸入代行業務を通じて電力の安定供給を支えるため、さらなる挑戦が続きます。