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現地からのメッセージ

2012.02.16 取材

被災地の子どもたちに夢と希望を

  • NPO法人 キッズドア
    事務局長 兼 復興支援担当 片貝英行氏

困難な状況にある子どもたちに無料で学習の場を提供してきたNPO法人キッズドア。東日本大震災による困難な状況から夢をあきらめないようにと、学習や体験の機会をつくってきた。指導する学生ボランティアにとっては貴重な経験、子どもたちにとって大学生はロールモデルであり、素直になれる身近なお兄さんお姉さんだ。

あおぞら教室では時間割に沿って、本気で遊び、勉強するあおぞら教室では時間割に沿って、本気で遊び、勉強する

親の前では言えないことも話してくれる

宮城県南三陸町の避難所では、震災後の4月14日から17日まで小中高生の「あおぞら教室」が開かれた。小学校も中学校も津波で流され、学校は再開していなかった。先生も被災した。学校が再開したとき授業についていけるのか、保護者も心配だった。あおぞら教室の先生は大学生のボランティア。NPO法人キッズドア(渡辺由美子理事長)が取り組む復興支援事業だ。

事務局長の片貝英行さんは「被災後ずっと、子どもたちはご飯を食べてテレビを見て寝るだけの生活を送っていて、保護者の方々が「学校が始まったら席に座っていられるか」と心配されたのがきっかけなので時間割をつくってふだんの生活リズムを取り戻すのが最初のあおぞら教室の目的でした」と振り返る。

学生ボランティアは事前に専門家からメンタルケアセミナーを受けた。ポイントは二つ。一つは自分が被災したと想定して追体験し被災者の心理状態を知ること。もう一つはセルフケアのやり方を知ること。ボランティアは被災地に入ると「自分は何もできないのではないか」と無力感にさいなまれることがよくある。そんなときは仲間と話し合い、みんな同じ気持ちなのだと互いに共有することで自信を取り戻す。ボランティア活動の後も、子どもたちから聞いた話をシェアしあって心の安定をはかった。重荷を一人で背負わないように。「子どもたちにとっては、年齢が比較的近いお兄さんお姉さんと一緒に遊んだり勉強することで、少しずつ心のケアになっていくのかな、と思って活動していました。子どもたちは賢いし、場を読む力が強いので、親が大変なことを察して負担をかけまいと、親の前ではすごく《良い子》になるんですね。みんな大変なんだから我慢しなさい、とも言われていますし。でも、お兄さんお姉さんの前では、ふだん言えないことをポツリポツリと話してくれます」

あおぞら教室は、子どもたちが心の奥底にしまいこんでいたことを発露できる場でもあった。震災後はクルマもなく道路も分断されていたから友だちに会えない。バスで巡回し子どもたちを乗せていくと、1か月ぶりの友だちとの再会に笑顔がこぼれた。子どもたちにとっては何より嬉しかったのだろう。

高校受験対策と放課後自習支援の「タダゼミ」

キッズドアは「日本の子どもをもっと元気に」のミッションと「すべての子どもが夢や希望を持てる社会を」のビジョンを掲げ、2007年に設立された。日本の子どもの相対的貧困率は15.7%(厚労省発表)。OECD加盟国の中でも高い水準だ。親の所得と子どもの学力は相関関係にあり、教育格差が拡大している。格差の生む貧困が次世代に継承される「負の連鎖」を絶ち切らなければならない。キッズドアは、生活保護の家庭や低収入の母子家庭など、困難な状況にある子どもたちに無料の学習支援や体験学習の場を提供してきた。子どもたちを指導する学生ボランティアへの研修費など活動に要する原資は、企業や財団からの寄付金や助成金、国からの補助金などで賄っている。

東日本大震災によって、東北の沿岸部では厳しい状況の子どもたちが増えるおそれがある。資産も職業も失われ、経済的に困窮すれば子どもの学力も落ちてくる。将来に対して希望を持てないと勉強する気も起こらない。何とかしなければ。キッズドアが支援に立ち上がるのは当然の成り行きだった。

夏以降、南三陸町からは学童保育を受託した。隣町で仕事を始めた保護者の帰りが夜遅くなるため必要になったのだ。会津若松市や仙台市でも中学生対象に高校受験対策と放課後自習支援の「タダゼミ」(無料ゼミナール)を実施。高校受験が迫った12月からは直前対策として南三陸町、釜石市、気仙沼市、仙台市、会津若松市の教育委員会や学校と調整し、「タダゼミ」冬期講習を開講した。予算と教材は企業や財団の支援を仰いだ。従来からつきあいのある企業・財団も被災地支援ということで快く寄付や協力を申し出てくれた。

被災した地域・学校の中学生を対象に、無料で高校進学のための受験講座「タダゼミ」を開催している。教員志望の大学生や教員経験者などが、ボランティアで指導にあたっている被災した地域・学校の中学生を対象に、無料で高校進学のための受験講座「タダゼミ」を開催している。教員志望の大学生や教員経験者などが、ボランティアで指導にあたっている

〈できた!〉という達成感の積み重ねが大切

学生ボランティアの登録数は800人を超えている。教員志望の学生なら将来に生かせる貴重な体験だし、塾講師や家庭教師のアルバイトをしている学生にしてみれば自分の経験を生かせるまたとない機会だ。子どもたちは大学生というロールモデルと身近に接することで将来の進路が見えてくる。「その場で教えて〈わかった〉と言ってもらえるのは嬉しい。それは大前提として、子どもがきちんと学習計画を守り、家で自学自習の時間を確保すること。それが肝心と学生には言っています。〈わかった!〉〈できた!〉という達成感の積み重ねでやる気が引き出され、プラスのスパイラルが生じて勉強の習慣がつく。これを短期間で成し遂げられるかどうかが勝負なんです」と片貝さん。

今後は学習支援と受験対策を継続しつつ、キャリア教育やグローバル社会に対応した英語講座も実施したい。「子どもたちはおのずとそれぞれの夢を見つけはじめています。夢を実現するための基礎学力に自信が持てて、仮に進路を軌道修正することがあっても、他の選択肢へ行くための勉強の習慣が身についていればきっと大丈夫」と片貝さんは被災地の子どもたちの将来に希望を託す。

行政でも企業でもない「ゆるいコミュニティ」としてのNPOは、行政のサポートから抜け落ち、家庭の経済事情のため企業のサービスも受けられず、地域のつながりからも孤立した子どもたちの受け皿として機能する。キッズドアのような取り組みが教育面で被災地支援に果たす役割は大きい。

とどける 「つくる・おくる・ともす」の現場で [社員の声で綴った記録]
  • 東日本大震災により、太平洋側の火力発電所をはじめとする当社設備は大きな被害を受けました。 本冊子「とどける」は、発電・送電・変電・配電・営業など、 電気を「つくる」・「おくる」・「ともす」のそれぞれの現場で災害復旧に従事した社員の「1秒でも早く電気をお届けしたい」という使命感や、 東北への想いを取りまとめたものです。

    2012年3月

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