白い国の詩
2007秋号

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●上/ふるさと福島の名山、安達太良山にて。毎年のように知人を案内して登っている。
●下/2009年9月、インドのジャガツスク5,332m頂上にて。
(写真/著者提供)

 
 
 
  東北へメッセージ
地元の人達とでなければ登れなかった山
田部井淳子
 
  ◎田部井淳子(たべい・じゅんこ)
登山家。1939年福島県三春町生まれ。 1975年、世界最高峰エベレスト8,848mに女性として世界で初めて登頂に成功。その後、各大陸の最高峰に登頂し、1992年7大陸最高峰登頂(女性世界初)。年5〜6回海外登山に出かけ、現在までに58カ国の最高峰に登頂。 今春発売された女性のための登山入門書『田部井淳子の はじめる! 山ガール』(NHK出版)の中で、ふるさと福島県の山も紹介している。
 
 
 福島県生まれの私は、毎年何回も東北の山には出掛けているが、まだまだ登っていない山がたくさんある。
 
 地元の人がほめる山には絶対行ってみた方が良いと思ったのは、下北半島にある縫道石山という岩峰に案内していただいた時だった。
 
 それまで山の名前も知らなかった。たまたま地元の高校創立90周年の行事で講演をたのまれ1泊することになった。
 
 PTAの役員の方で山好きの人から、いい山があるので講演が終わった後一緒に登りませんか、とさそわれ、山の用意をして出掛けることにした。
 
 縫道石山という岩峰は、標高は低いが頂上からの眺めがすばらしいというので楽しみだった。登山口へゆくまでの道のドライブも紅葉の美しい10月でまさに錦の帯の連続、道が曲がるたびに現れる山肌の色合いはすばらしかった。
 
 岩峰といわれていたが登山口は森の道だった。が、登るにつれ木の間からピョンとつき抜けた岩峰が見えてきた。本当に登れるのか、と思えるほど急峻な岩である。「大丈夫なの?」と聞くと、「ええ、行ってみれば判りますよ」と全員含み笑いするので、かえって心配になった。しだいに急になり、木の幹や根っこをつかんでの登りになってきた。もうすぐですという声の主は、私の頭上垂直に3m位はある木の根に足をのせて振り返った。岩が出てきたら頂上ですよ、と明るい声で笑っている。
 
 両手両足をフルに使って登り切るといきなり岩の上に出た。眼下に広がる紅葉の森、はるかに陸奥湾が見下ろせ、おもわず歓声が出た。
 
 狭い岩場だったが、まさに絶景の頂上だった。目の下はするどく切れ落ちた岩場で高度感もある。びっくりする私に、「縫道石山登頂おめでとうございます! いい山でしょう」と握手の手がたくさん差し出された。地元の人達とでなければ本当に来られない山だった。全員と固い握手をかわす。熱いお茶と手作りの漬物がおいしかった。「昼食は下山してからですからね、今はこれでがまんしてください」とこれまた含み笑いの顔の群。ウーム、また下にはなにかいいことが隠されていそうだと予感する。
 
 山頂からの雄大な眺めと紅葉の美しさを充分に味わってから下山。下山後食べた縫道石丼の味も格別だった。東北の地元自慢の名山はまだまだたくさんあると思うので、ぜひ紹介してほしい。
 
 
 

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