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![]() ![]() ●「地産地消がおいしさの基本」と話す鈴木さん。 ![]()
●下/ゆうごうの断面。皮は固いので少し厚く剥き、種の部分を除いて調理する。
具材にはゆうごうが欠かせないが、巾着なすもなくてはならない。 さらに、じゃがいもや玉ねぎ、青ネギ、大根などを加えてもおいしい。 最近は塩鯨が高価になり、地元でも油揚げに変わってしまったという家庭もあるようだが、やはり鯨の風味は絶品だ(写真提供/長岡市)。 |
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信濃川がゆったりと市域を貫流する新潟県長岡市。日本一のこの大河はかつて、氾濫を繰り返し、川筋を変えては流域の人々を苦難に巻き込んだ。ところが一方では、沖積層の肥沃で広大な河川敷を形成し、作物に多大な恵みをもたらしてきた。 地元で昨今人気上昇中の“長岡野菜”も、この豊かな川の恩恵を受けて育まれている。その中の一品種“ゆうごう”は、ひょうたん形をしたウリ科の野菜で、正式な品種名は“夕顔”。地元の方言では訛って“ゆうごう”と呼ぶ。 夕顔の原産地は熱帯アジアやアフリカとされ、日本には平安時代に中国から伝わった。白い花が夏の夕方に開き、翌日の午前中にはしぼんでしまうことから、この名がついたという。枕草子や源氏物語にも登場する楚々とした可憐な花だ。 昔、水筒代わりに使われたひょうたんも同一種で、インドで苦味の少ない品種が生まれ、食用にされるようになったという。また、海苔巻きに欠かせない“かんぴょう”は、夕顔の実を細長い帯状に剥いて干したもの。漢字で“干瓢”と書くのにも納得がいこう。 さて、他の地方ではそれほど注目されない野菜なのだが、なぜ長岡ではゆうごうとして親しまれ、市民権を得ているのか?「古くからこの辺りでは、夏に熱い鯨汁を食べる習慣がありまして。その汁の具として、ゆうごうが欠かせないのです」と話すのは、長岡中央青果株式会社取締役会長で長岡野菜ブランド協会会長も務める鈴木圭介さんだ。 食材が限られた昔、越後地方ではたんぱく源である塩鯨を夏野菜と一緒に煮込んで食べ、夏バテ防止を図っていた。正確な起源や由来は不明なものの、藩政時代の記録が残るそうだ。「ゆうごうは、長岡野菜の中でも、最も歴史のあるエースですね」と鈴木さんは説明する。 平成10年、東京の識者が長岡産野菜のおいしさを支持してくれたことをきっかけに、鈴木さんは「長岡野菜研究会」を立ち上げた。均一に商品化された味気のない野菜を見直そう、地域の食材を大切にしようとの声が挙がり、「京野菜」や「加賀野菜」などが注目され始めた頃だった。会ではさまざまな野菜を食べ、生産者や長老を訪ねて調査したという。 平成14年、同会は行政や商工会議所、消費者協会なども参加する「長岡野菜ブランド協会」に発展。「伝統的で長岡独特の野菜」、「よそにあっても、伝統的に長岡独特の食べ方をしているもの」、さらに「よそにもあっても、長岡産が格別においしいもの」との基準を決め、巾着なす、かぐらなんばん、肴豆など13品目を認定した。以降、普及活動を続けてきた結果、地元での長岡野菜の認知度も評判も上がってきている。 「昔はどの家の畑にも、ゆうごうの畝が1列ありましたね」と話すのは、市内有数の野菜生産地、中之島地区でゆうごうを生産する長谷川茂さんだ。実が1個2〜8kgにも育つゆうごうは、もともと流通ルートに乗りにくく、家々で作るものだった。しかし食料が豊富になると、鯨汁を作る機会も、ゆうごうを育てる家も減ってしまった。「うちは今も鯨汁を食べます。ゆうごうの滑らかな食感、うまいですよ」。長岡の人は、夏にゆうごうを目にすると鯨汁の味を思い出すのだそうだ。 ところで、よく似たウリ科の“冬瓜”は混同されがちだが、白い花をつける夕顔とは違って黄色の花をつける。夕顔の方が繊維のきめが細かく、舌触りが滑らか。特に長岡のゆうごうは、火を通した時の滑らかさが格別にいいという。 ゆうごう栽培は、自家採取の種と、種苗会社の種を使う2つのケースがあるが、長谷川さんは後者。「4月上旬に種を撒き、苗をハウスで30〜40日育ててから、5月上旬に畑に定植します」とのこと。蔓がどんどん伸びるため、支柱立ても欠かせない。1本の苗ごとに、高さ2mほどのアーチ形のパイプを設置し、これを並べて繋ぎトンネル状にする。「作業の中では、これが一番大変かな」と長谷川さん。すいかのように地這いでもできるが、収穫までの期間が短いため、日の当たらない部分が白くなってしまうのだ。 信濃川がつくった肥沃な土壌に加え、河川敷は地下水が必要な分だけ上がってくるので水やりは不要。「育ち具合を見ながら、追肥は必要。元肥より追肥が大事でね…」、この辺りは長年のプロとしての経験や勘がものを言うことになる。そして、平安の世から詠まれる美しい白い花が咲き始めるのが6月10日頃。これがすぐに実を結び、20日頃には早くも初収穫となるそうだ。この時期はまだ2kg弱程度の小さいうちに採る。「まだ植物の身体ができていないので負担をかけないように一度収穫します。その後、力が付いてきたら、大きな実に育てます」。 こうして最低限の防虫消毒や雑草対策も行い、梅雨が明けるといよいよ旬を迎える。葉が茂った支柱のトンネルの中に、両手に余るほどの大きさに育ったゆうごうがあちこちにぶら下がる光景は圧巻だ。長谷川さんによれば、手をかければかけるほどたくさん実をつけるが、やはり夏の太陽が欠かせないという。収穫は8月末から9月上旬まで続く。 現在、長岡野菜のブランドでゆうごうを出荷する生産者はまだ3〜4名。それでもここ数年の出荷総量を見ると、平成18年が8,840kg、以降9,306kg、12,560kgと順調に伸びている。昨年は生産者の一人が都合で栽培できず減収となったものの、「かなり手ごたえを感じますよ」と鈴木さん。 協会が行うゆうごうのアイデア料理募集や料理教室、試食会などといったPR活動も奏功。ここ数年のうちに郷土料理“鯨汁”は、市内のほとんどのホテルや飲食店のメニューにのぼるようにもなった。 料理が得意な鈴木さんは自ら新メニューを考案し、小中学校に出向いて調理実習なども行う。「子どもたちがみんな、おいしいと目を輝かせる。嬉しいですね」。子どもから親へ伝わり、若いファミリーの食卓にもゆうごうが復権していくことだろう。それでも、鈴木会長は「まだ始まったばかり。まず地元の方々に認知していただかないと」と話す。 郷土の味覚は、再びゆっくりと地元に根付き始めている。 ゆうごうの実は、90%以上が水分で食物繊維が豊富。地元では、学校給食や病院の食事にもよく使われるという低カロリーでヘルシーな食材だ。 鯨汁を食べる習慣は新潟以外、北海道や東北、西日本などにも伝わる。特に道南では豊漁を願う正月料理として欠かせないそうだ。他の地域は主に冬に食べるが、なぜか新潟と山形は夏の食べ物であり、新潟の鯨汁にだけゆうごうが入る。 ここで、長岡の鈴木さん直伝の“鯨汁”を紹介しよう。用意するものは、黒皮付きの塩鯨、ゆうごう、長岡野菜の巾着なす、ごぼう、車麩、つきこん、しいたけ、ネギ、根三つ葉、だし汁、しょうゆ、酒、塩、柚子胡椒など。作り方は、まず短冊切りにした塩鯨を熱湯でひと煮立ちさせ、水気を切っておく。ごぼうは笹がき、車麩は戻して一口大に切り、つきこんは湯通ししてあく抜きする。さらにゆうごうと巾着なすは短冊切り、しいたけは薄切り、ネギは小口切り、根三つ葉は1cm程度に切る。鍋にだし汁と、ネギと三つ葉以外の具材を入れて煮上げ、調味料で味を調え、最後にネギと三つ葉を入れて出来上がりだ。 ここではしょうゆと塩での味付けだが、味噌仕立ての家庭も多いという。鯨の旨みが淡白なゆうごうの実に染み込み、ツルンとした食感とともに楽しめる。多彩な食材が入っていて栄養価も抜群、まさに夏バテ防止にぴったり。 もう一つ、鈴木さんが考案した“ゆうごうの温野菜サラダ”は簡単ながら、ゆうごうの醍醐味を満喫できる一品だ。材料はゆうごうとエキストラバージンオイル、塩のみ。小口から食べやすい大きさに切ったゆうごうを、パスタを茹でる時と同量ぐらいの多めの塩(水量の1%程度)を入れた湯で茹で上げ、熱いうちにオリーブオイルをまぶすだけ。温かいうちだけでなく、冷たくしてもおいしく食べられるという。 さあ、夏のゆうごうの収穫時期が待ち遠しくなってきた。 text:Yumiko Naba, photographs: Takae Suzuki
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