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岩手の多様な念仏剣舞の中でも、浄土信仰の色合いが濃いのが、盛岡市、花巻市などに分布する大念仏系の剣舞である。この芸能では、大きな風流笠を振る踊りを特色とするが、盛岡市の永井の大念仏剣舞の場合、大笠は直径約1.5mの台に阿弥陀堂を表す三重の塔を据えて花や四門を添え、下は赤い布と短冊で覆う。大笠が大きく振られると、見る者は極楽浄土の陶酔に誘われるという。 大念仏系剣舞では、幼くして没した梅若丸の念仏供養を由来とするところが多く、寛政年間、紫波町から現在の庭元である小笠原家にもたらされたと伝えられる巻物にも、関連の記述がある。奉納の記録は明治5年(1872)に始まり、以後20年、30年ごとの復興を繰り返しながら断続的に踊られてきた。 昭和30年代までは、お盆は地元の家々を回るほか、他の地域へも出かけたと語り継がれている。 暑い夏の日、とある祭に招かれた永井の大念仏剣舞を見た。ゆるい拍子で歩いて来た一行は、まず鳥居の前で「門ほめ」の回向(えこう)を上げ、お堂に入って念仏回向をした。 音頭上げの順序にしたがい輪になる。蓮華を染め抜いた上衣と笠の「鉦張り」や「ふくべ振り」は役の格が高いと言い、念仏僧の遺風を感じさせる。太刀や扇、唐団扇を持つ踊り手たちが続く。かつては競って高価な着物をあつらえたものだという。注目の「大笠振り」が終わると、笠の下から顔を紅潮させた青年が出て来て「まだ未熟で」と嬉しそうに汗を拭いた。その後、太鼓を並べて「廻り胴」を行い、「礼踊り」で境内を去って行く。物悲しい笛の響きに、誰もがなんとなく西陽の向こうの浄土を思う午後だった。 今年の夏は、久しぶりに庭元での供養奉納を行う予定である。 文/飯坂真紀(民俗芸能研究者) |
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