| トップページ > キッズ・広報誌 > 白い国の詩 > バックナンバー > 2008.夏号 > 東北の技 |
![]()
![]()
|
![]()
鉋の刃をのせ、支えている木を鉋台と言い、これをつくることを台打ちと言う。 台打ちの技術は難しいと思われているけれど、 鉋が切れて、鉋屑が出てくる瞬間はものづくりの気持ちよさに満ちている。 台打ち55年の職人は、その感覚を大切にしろと、鉋道場を訪れる人たちに話しかける。 新潟県の三条は、古くから刃物や道具づくりが盛んなまち。大工道具などの問屋が今でも残っている。鉋(かんな)台の職人は主としてこうした問屋から注文を受けて仕事をする。 鉋刃は、同じ鍛冶職人の同じ型のものでも、厚みや反りなど、見た目には同じように見えて、一枚一枚すべて違う。台は、その刃に合わせてこしらえる。代わりはきかない。「刃物をつくる鍛冶が主役で、台打ちは脇役」と職人は言うが、昔から「鉋は台が七分、刃が三分」と言われた。それだけ台のつくりがものを言うということだ。 鉋台打ち職人猪本功さんが、いま手にしているのは長台と言われる1尺3寸(約390mm)の長さをもつ鉋。家具職人が引き出しなどを平にするときに使う。刃の角度は、杉や松などの建築材に使う鉋なら、八分勾配(約38度)とされている。欅など堅い材には40〜42度と少し立たせた角度をつけ、逆に桐などのやわらかい材を削る鉋は31度程度に寝かせる。曲尺で測って台に線を墨入れする。 鑿(のみ)で溝の荒彫りをしていくと、次第に内側の斜面に角度が出てくる。その過程はまったく手技の為せるもの。外側にしか書かれていない線など、だいたいの目安に過ぎない。長年かかって体で覚えた技が角度を探り当てている。彫り出した、その斜面が表なじみと呼ばれるところ。刃の表面に油をつけて溝に仕込んでみると、表なじみの出っ張っているところに油がうつる。そのひと塗りの薄さを削っては面を整えていく。「ここがいちばん台打ちの肝心なとこだ」と職人が言う通り、刃と台がうまく合わないと、刃が切れても切れる鉋はできない。刃をあてて、ほんの僅かに削り出し、それを何回も繰り返して絶妙な刃の仕込み具合が定まっていく。 刃は台の溝に楔のように打ち込まれる。大きい力が溝に働く。だから鉋台には粘りのある樫の木が使われる。堅いだけでは、割れてしまう。作業場2階には台打ちする前の樫の荒台がおよそ3万〜4万丁積み上げられている。木が休んでいる寒のうちに伐り出し、製材した後、ここで3年から4年乾燥させてから使う。 台の裏側の面はいったん鉋で水平に台ならしする。だが、最初から水平では鉋を引くときに引っかかって切れない。刃の溝と台尻(台の後端)の間の面を、薄い紙1枚分ぐらいそぎ落とさないといけない。鉋を引こうとすると張力が働いて、ここで真っ平らになり、台がなめらかに滑るようになる。紙1枚分そぎ落とすのは小さい立鉋。刃が垂直に立っている。「この立鉋はもう40年以上使ってる」。樫の白木だったものが、いまは黒々と輝いていた。「つくった道具使って、またその道具つくるのは台打ちぐらいだな」。 仕込みがおさまった鉋は、その場で試し切りをする。木が気持ちよく削られていく。透けるような薄さの鉋屑が溝から出てくる。木の表面は見事なまでにすべすべしている。木の細胞がきれいに切られたために表面の荒れがない、水も吸わない。大工がいい仕事をした用材は結局、肌ざわりがよく、耐久性もいいのだと実感する。猪本さんは納品する鉋に、その鉋で切った鉋屑を添えてやることがある。切れ味の証しだ。「大工の中には『削り華』と言う人もいるな」。鉋屑は屑ではない、いい鉋から生まれたきれいな華なんだ。鉋をつくる職人、使う職人の思いがそのとき重なる。 猪本さんの木工所は先代が昭和12年に創業した。猪本さんは中学生の時から鉋の台打ちを手伝った。溝を全部彫るにはさすがにまだ技が十分でないため、半分ほど荒彫りする作業を来る日も来る日も続けたという。卒業する頃にはもう一人前になんでもできるようになった。昭和47年に近所に住むツヤ子さんと結婚。いっしょに木工所を支えてきた。娘が3人いるが、孫も女の子。その孫がよく作業場で猪本さんのまねをして遊ぶという。「孫が跡継ぐかもわかんねな」と笑う。 猪本さんは木工所に「鉋道場」という看板も掲げている。若い人に請われれば、55年鍛えた技を惜しげもなく伝授する。材料代はもらうが、授業料のようなものは取らない。職人を育てようというのではない。難しく考えて技を閉じこめるより、ほんとうにつくってみたい人が気軽に覚えてくれれば…。猪本さんはそういう技の広がりを考えている。
text:Toshitsugu Matsuda, photographs:Kiyotaka Shishido |
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(C)Tohoku-Electric Power Co.,Inc. All Rights Reserved.