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東北の地域振興と企業誘致「対中関係」「産学連携」「人材育成」

一橋大学大学院教授 関  満博氏

これまでの東北

 かつて工業過疎と言われていた東北も、この20ー30年にわたる必死の企業誘致、地域産業振興政策の推進、そして、新幹線、高速道路網の整備などにより、産業基盤を大きく充実させてきた。東北の方々からすれば「まだまだ」なのかもしれないが、全国を歩いている身からすると、南九州、四国、山陰、関西、そして北海道などと比較すると、称賛すべき成功を勝ち取ってきたと言ってよいと思う。

 だが、現在、かつてのような「企業誘致」は難しいものとなり、新たな戦略的な展開が求められている。その場合、これからしばらくの東北の地域産業振興にとって不可欠であるのは、「対中関係」「産学連携」「人材育成」の三つに尽きる。

アジアの風と交わる

 現在、中国を中心としたアジアは飛躍の時を重ねている。その現場に身を置くと、激しさにたじろぐばかりであろう。だが、残念なことに、東北にはその「熱風」が届いてこない。私の印象では福岡から入った「熱風」は中京地区で消えてしまっている。この「中国・アジア」が歴史を作ろうとしている現在、東北自身がその風の中に飛び込んでいくことが不可欠である。現在の日本産業・企業は「中国・アジア認識」なくして次の時代をイメージすることはできない。

 特に、東北にとって中国東北地域は極めて興味深いものに思える。地理的な近接性、気候風土、気質の近似性などは、多くの可能性を期待させる。これからは、文化交流の段階を超え、経済交流の可能性に踏み込んでいくことが求められる。中国側も2003年に開催された中国共産党第16期中央委員会で決定された「東北振興」という国家プロジェクトを21世紀最大の課題としており、産業開発、環境問題などを焦点に両国が深い交流を重ねていくことを期待したい。また、近年、中国側は企業の海外進出を積極的に推進している。中国企業が日本に進出したり、日本企業を買収するなどは当たり前の時代になりつつある。東北の企業誘致も国内企業だけでなく、中国・アジア企業を視野に入れていくことが必要であろう。特に、中国では大学が企業を興し、海外進出などにも踏み込んでいる。仙台の東北大学とも縁の深い瀋陽の東北大学は、東京のお台場にソフト関連の企業を設立している。こうした大学とも積極的に接触し、新たな可能性を求めていくことが必要であろう。

大連の東北大学情報技術学院

中国・瀋陽の東北大学が経営する企業「東軟集団」が設立した専門学校。コンピュータ・ソフトと日本語を教えている。

花巻市起業化支援センターの

藤重嘉余子氏

花巻市起業化支援センターに進出した富山県のソフト企業「マーフィーシステムス」は、花巻市の人的・環境に着目して進出を果した。

新たな産学連携の可能性を求めて

 大学の科学技術の産業化は「世界の潮流」だが、残念なことに、世界の主要国の中でも日本が一番遅れてしまっている。日本の場合、大学側にインセンティブが乏しい。今後、少子化の進行などにより、大学経営も難しくなる中で、大学サイドの一歩踏み込んだ新たな展開が期待される。この点、全国の産学連携の中でも、岩手県が興味深い取り組みを進めている。INS(岩手ネットワークシステム)がそれだが、そうした動きを東北全体の動きにしていくことが必要であろう。

 この点、先に指摘した瀋陽の東北大学は全中国の中でも最も先鋭的な取り組みを重ねていることで知られている。少なくともアジアの中で最も進んでいる大学であろう。そうした大学と人の面、ビジネスの面でも深く交流を重ね、大学の産業化、大学発ベンチャー、新たな時代向けの人材育成などに、東北の人々が目覚め、一歩踏み込んだ取り組みをしていくことが求められる。「国際産学連携」などが模索されてもよいのではないか。それが刺激となり、東北の大学と産業界が活性化していくことも期待される。

「人材育成」しかない

 天然資源が乏しいわが国の場合、「人材」以外の資源はないと考えるべきである。「人材育成」こそ、東北の将来における最大の課題となる。この点、東北には追い風が吹いているのではないか。かつての東北は東京に人材を供給する役割を果たしていた。だが、最近の「少子化」「長男、長女」時代には、生活環境に優れる東北に若者が戻ってくる。人材は、現在、潜在的に地方にいる。また、人材がいなければ「事業」など興きない。これからの企業立地の選択は、明らかに「人材立地」となることは間違いない。

 魅力的な人々のいる地域では、そこに立っただけで「何かが興る予感」がする。事実、岩手県の北上市、花巻市あたりには、そうしたことを直感し、進出してきた企業も少なくない。この「何かが興りそうだ」という環境、雰囲気を地元の人々が作りうるかが問われている。「希望と勇気に満ちた」若者の育成、生きていることが「楽しくなる」ような地域的な雰囲気づくりに積極的に関与していくことが必要なのであろう。岩手のINSはまさにそのような流れを作りつつある。

 北陸から研究開発拠点を花巻市に持ってきた女性経営者は「ここにいると、何か起こりそうなのよ」と語っていた。このことを深く実感し、人々が集まってくる東北を作るために、人々は一歩踏み込んだ取り組みを重ねていくことが求められているのであろう。

 東北のキーマンの一人、花巻市起業化支援センターの佐藤利雄氏は、企業支援の三箇条として、以下の言い方をしている。「いつも明るく元気で、笑顔」「否定語は使わない」「相手よりも先に動く」。これは企業誘致、産業振興戦略の世界だけの言葉でなく、人生の「三箇条」というべきではないかと思う。東北の明日を作るために、「希望と勇気」を胸に一歩踏み込んだ取り組みを重ねていくことを願う。

せき みつひろ:富山県出身 1971年、成城大学経済学部卒業。1976年同大学院経済学研究科博士課程修了。東京都商工指導所を経て、1989年東京情報大学専任講師、1993年助教授、1995年からは専修大学商学部助教授。1998年より一橋大学商学部教授となり、2000年から一橋大学大学院商学研究科教授(現職)。

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*2005年2月寄稿原稿

一橋大学大学院商学研究科・商学部 URL http://www.cm.hit-u.ac.jp