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地域経済活性化への取り組み 慶應義塾大学・米田雅子教授に聞く農商工連携がもたらすもの


 現在、農林水産省と経済産業省の両省では、地域経済活性化に向けた具体的な戦略として農林水産業や商工業などの地場産業が互いに結びついて事業を行うことを目的とする「農商工連携」を推進している。地域を支える中小企業者と農林水産業者が連携して新たな事業を起こす計画が認定されれば、減税や低利融資、債務保証などの支援が用意されている制度である。制度のさらなる普及をめざし、国は2008年3月「農商工連携88選」を選定し、東北・新潟エリアからも11の事例が選ばれている。「農商工連携88選」の審査委員長も務め、地域再生について幅広い知見を有する慶応義塾大学理工学部の米田雅子教授に、農商工連携の意義や、地域活性化のためのポイントについて伺った。

異業種の連携が「地域ブランド」を生み出す

 公共事業の縮小や少子高齢化による後継者不足など、地方経済が抱えるさまざまな課題にとって有効な対策となるのではないか――。業種を超えた連携によって地域経済の活性化につながる農商工連携には、そんな期待が集まっている。日本の農林水産業には脈々と受け継がれてきた確かな技術があり、工夫次第では大きく発展する可能性を秘めているからだ。
「たとえば東北地方や新潟県には、芸術品のようなりんごやさくらんぼを栽培し、すばらしいお米をつくる技術があります。しかしこれまではその商品の価値が消費者にうまく伝わっていなかったように思われます。農商工連携の狙いの一つは、今あるものの価値を再発見して、新たなブランド化を図ることにあります」と米田教授はいう。生産性の向上や新規事業、販路の拡大には、業種の壁を越えて協力し合うことが不可欠だとして、青森県産りんごの海外販売を精力的に進めている片山りんご(青森県弘前市)を例にこう説明する。
「片山りんごの海外進出にあたっては、日本電気が輸送に関する品質管理の機材を開発し、弘前商工会議所が輸出に要する諸手続きを指導しました。また、輸出国のニーズに合わせて販売するために、JETRO(日本貿易振興機構)からもアドバイスを受けています。りんごは、イギリスなどヨーロッパでは小玉が、中国などアジアでは大玉が好まれるのですが、そうした情報も事業には不可欠でした。つまり、農業の技術に商業や工業のノウハウをミックスしたことで、広く世界で通用する商品価値を生み出すことができたわけです。いわば埋もれていた“宝”に価値をつけ、それを求める消費者にしっかり届ける。これが農商工連携の目指すべき方向性といえるでしょう」。

異業種の連携が「地域ブランド」を生み出す

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東北・新潟エリアに見る先進的ビジネスモデル

 「農商工連携88選」について、米田教授は「東北・新潟の11事例はいずれも注目に値する」と話す。印象深いものとして、平田牧場(山形県酒田市)と妙高ガーデン(新潟県妙高市)を挙げた。
平田牧場は減反田で飼料用米をつくり、そのお米で育てた豚を「こめ育ち豚」という高級豚肉ブランドとして市場に送り出した。豚の品種や飼料の生産技術開発は東北農業研究センターや山形大学農学部と連携し、農協や生活クラブ生協とも協力しながら、生産・流通・販売まで一貫で行う仕組みを実現した。米田教授は「水田を再生するだけでなく、バイオエタノールの影響で価格が高騰している穀物飼料を国内で調達した点で高く評価できる」とし、減反対象田に飼料米を植えるこのプロジェクトが全国に普及すれば、食糧自給率の向上に大きく貢献するのではないかと考えている。
一方の妙高ガーデンは、妙高市のコーディーネートのもと、地元の複数の企業に出資を募り、商社の協力で販路を確保。強化ビニールハウスのミスト栽培で大葉やハーブを生産している。出資者のひとつである同市の野本組(建設業)は、妙高ガーデン設立前から農家などと提携して無農薬栽培を事業化、大葉の妙高ブランド確立に先鞭をつけた。妙高ガーデンの成功の下地には、建設業者と農業者の異業種連携があったのだ。
「この事例は特定法人貸付事業を活用し農地がリースされたことで、遊休農地の解消にもつながっています。また、摘み取り作業は軽労働なので、高齢者や女性の働く場としても適しています」と米田教授。このような野菜工場は全国の中山間地域でビジネスとなる可能性が高いと指摘する。

平田牧場の「こめ育ち豚」は、山形県庄内の減反田で育てたお米(飼料用米)を与えた豚の呼び名

平田牧場の「こめ育ち豚」は、山形県庄内の減反田で育てたお米(飼料用米)を与えた豚の呼び名

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「複業」の視点が地域活性化の大きな鍵

 これらの事例からは、その地域ならではの価値を地元の人々が再発見し、新たな地域ブランドとして売り出すために、農商工連携が原動力となっていることがよくわかる。米田教授はいう。「小さなまちでは、そこにある事業者同士が力を合わせるしかありません。農協は技術指導をし、建設業は機械と労働力を提供して土地改良を行い、商工会が販路をつくる。これからの地域活性化には、そういう流れが必要です」。
また、地方の企業は「副業」ならぬ「複業」の視点を持つべきと呼びかける。マーケットの規模が限られている地方では、企業が「専業」で自立するには限界がある。農業の担い手不足を補おうと農作業を代行する建設会社も増えているが、地方産業の活性化にはそうした横断的な戦略が不可欠だ。
「業種を超えた事業が展開しやすくなるように、国が法律や制度を見直して、より運用しやすい環境をつくりあげていくことが大事なのです」と米田教授はいう。
そしてもう一つ重要なことは、現状打破のための意志だ。企業や地域の思いが強いほど、異業種間の連携もおのずと深いものになるであろう。

7,200坪の広大な温室でミスト栽培を行っている妙高ガーデン

7,200坪の広大な温室でミスト栽培を行っている妙高ガーデン

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*取材日 2008年12月現在

よねだ まさこ

【略歴】

●よねだ まさこ:山口県出身。1978年お茶の水女子大学理学部数学科卒業後、新日本製鐵で構造解析を担当。東京大学建築学専攻村松研究室研究員を経て、1998年NPO法人建築技術支援協会設立、常務理事に就任。2006年4月東京工業大学統合研究院特任教授、2007年4月慶應義塾大学理工学部教授に就任し、現在に至る。建設産業、国土建設、地方活性化に関わる研究・評論・支援活動を行い、農水省・経産省の農商工連携88選選定委員長をはじめ、政府および関連機関での各種委員も多数歴任。

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