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株式会社 向陽アドバンス

宮城県石巻市 完全人工光型植物栽培施設の運営

断熱パネルメーカーのアドバンテージを活用した植物工場

企業データ

株式会社向陽アドバンス

所在地:
〒987-1103 宮城県石巻市北村字桑柄四.17-1
代表者:
代表取締役社長 澤口 勝広
設立年:
1984年8月
従業員数:
30名
事業内容:
(1)硬質ウレタンパネルの生産 (2)完全人工光型植物栽培施設の運営
TEL:
0225-73-3031
FAX:
0225-73-3189

施設に自社製品を使用して劇的にコストを削減し、採算に乗せることが難しい植物工場で初年度から利益を出す。宮城県石巻市の断熱パネルメーカー、株式会社向陽アドバンスの堅実な戦略だ。向陽グループは、従業員の雇用を守る経営理念を貫き、業務の多角化で危機を乗り越えてきた。断熱パネルの販路拡大を契機とした植物工場への挑戦は、地域の雇用創出にもつながっていく。

自社製品でイニシャルコストを大幅に低減

気候変動に左右されず一定の品質で計画的な水耕栽培が可能。害虫の侵入がなく無農薬の安全・安心な野菜をつくれる。成育にふさわしい適温を常に保つから働く人にとっても快適な環境。このように良いことづくめの植物工場だが、イニシャルコストとランニングコストが高く、なかなか採算は合いにくい。

ところが、本業のアドバンテージを活用してイニシャルコストを劇的に下げ、初年度から黒字をめざす植物工場が宮城県石巻市にある。

向陽アドバンスの「完全人工光型植物栽培施設」だ。同社は硬質ウレタン断熱パネルのメーカー。食品や半導体、精密部品などの工場、冷蔵庫、貯蔵庫、携帯電話中継局など多様な用途に使われている。

植物工場にも温度・湿度管理に断熱パネルは欠かせない。向陽アドバンスは自社製品を使うことで、通常1億2,000〜3,000万円かかる完全人工光型施設のイニシャルコストを7,000万円に引き下げた。

隣接する自社工場でウレタン断熱パネルをはじめとする製品を生産している隣接する自社工場でウレタン断熱パネルをはじめとする製品を生産している

「そもそもは、ウレタン断熱パネルの新しい販路として植物工場を捉えていたのです」と同社の澤口勝広社長は参入の経緯を振り返る。「一昨年、とりあえず植物工場とはどんなものか研究するために、断熱パネル工場の片隅に6坪ほどのデモ機をつくり、二十数種類の葉物野菜を試験的に栽培してみました」

1年がたち、おおよその見通しがつくと、空き工場を活用して植物工場をやりたい、との引き合いが2、3件あった。小規模で試験的にはうまく行ったが、果たして大規模に本格操業できるのか。失敗のリスクを考えると、他社を巻き込む前に、まずは自社で取り組もう、ということになった。

「ある程度ノウハウが確立したら、やりたい人に任せるつもりでした。なぜ植物工場を?とよく聞かれるのですが、やってみるか、くらいのスタートだったのです」と澤口社長は笑うが、自社の断熱パネルを使えば初期投資を抑えられるとの判断は最初からあった。「それがなければできなかったですね。デモ機での試験栽培の結果、ローズレタス、ハンサムグリーンのレタス2品種を育てることにしたのですが、収支計算するとイニシャルコストを7,000万円に抑えないと採算がとれない。それが可能な方法を考えると必然的にこうなりました」

植物工場では「求められる野菜」をつくるべき

2010年11月から110坪の栽培棟、86ワットの蛍光灯1,056本の設備でスタートした。人工光、水耕養液、二酸化炭素濃度、温度・湿度はすべてコンピュータ管理。収穫までの期間は30〜45日と、通常のハウス栽培の約1/2に短縮できる。目標生産株数は年間30万株で、借入金の返済、社員2人とパート1人の人件費、もろもろのコストを差し引いて200万円程度の利益を見込んでいる。販路はレストランやホテルへの直売、市場、仲卸。銀行への社販も好評だという。植物工場のレタスにはえぐみや土臭さがなく子どもたちも好んで食べる。

「〈やさしい菜〉というブランドを消費者に認知していただくために、原価ぎりぎりですが市場を通じてスーパーマーケットにも卸していきます」

植物工場への新規参入にあたって、研究者の助言を仰いだり、他社施設を視察したりはしなかった。本業での提携先、三菱樹脂から福井県で運営する植物工場の情報が入ってきたし、できる範囲のことをやろうと決めていたからだ。

デモ機ではLED照明も試したが、イニシャルコストが高く、失敗の原因になる例が多いとわかって断念した。栽培品種も「売れるもの」というより「できるもの」を基準に絞り込んだ。葉を切る必要がなく、発泡スチロールのボードに定植し、そのまま下ろして収穫すればよいレタス系で、味や見た目など社員のアンケートも参考にしながら、比較的付加価値の高い2品種に決めた。

エアシャワーをあびてからでないと入室できない栽培棟。栽培棚は6段で、4列並んでいるエアシャワーをあびてからでないと入室できない栽培棟。栽培棚は6段で、4列並んでいる

だが、操業を始めて2〜3か月で「農業は自己満足ではダメ」と澤口社長は痛感させられる。「市場関係者や仲卸さんなどから〈植物工場は求められる野菜をつくったほうがいい〉とアドバイスされました。たとえば春菊は冬場の鍋の時季に量が出ますが、あまり出回らない夏場にも需要はあるそうです。老人ホームのお年寄りが年間を通じて春菊の胡麻和えなどの献立を喜ぶらしい。だから〈夏場に春菊つくったら絶対に高く売れるよ〉と。そんなふうにいろんな情報に接すると、野菜ができたから買ってもらうのではなく、買ってもらえる野菜をつくるマーケティングが重要なんだと、つくづくわかりました」

バジルのようなニーズの多い香草類を一部のラインで栽培し始めている。高く売れる果実類もデモ機で実験し、ゆくゆくは挑戦していくつもりだという。

地域に新たな雇用を生むための業容拡大

この先、大手の外食店や小売店と組むにしても、大量の安定供給が要求される。とても現在の1棟では対応できない。「1棟だけでも、利益トントンで続けていくことはできるでしょう。でもそれだけでは何のためにやっているのか、事業としてはおもしろくありません」という澤口社長が次の立地先として考えているのは、石巻市に隣接する女川町。電源三法交付金により、条件によっては8年間の電気料金に対し、実質的割引となる大幅な補助金*が交付されるのだ。原価を下げて市場からの流通にも対応できる。

規模の拡大は雇用を生む。石巻市も女川町も雇用の状況は深刻だ。しかし、植物工場が仮に10棟できれば、40〜50人の新たな雇用が生まれる。

「石巻には障がい者の授産施設も少ないんです。植物工場なら内部は年中暖かいし、定植や収穫作業は重労働ではないので、将来ここは授産施設として運営していくことも検討しています」と澤口社長は話している。

植物工場の増設は、地域に新たな雇用を生む植物工場の増設は、地域に新たな雇用を生む

向陽グループの鈴木勝代表は、社会福祉法人を設立し老人ホームを運営している。そこにも高齢者の生きがいの場として植物工場をつくる計画がある。

株式会社向陽を中核とした5社で構成される向陽グループは、もともと電子部品メーカーの協力工場として発足した。しかし国内の生産拠点が東南アジア、中国に移転して仕事が減るたびに従業員の雇用確保に奔走し、その結果さまざまな分野へと経営を多角化してきた歴史がある。向陽アドバンスのウレタン断熱パネルも、その一環にほかならない。

仕事が減っても従業員を切らず、新たな仕事を見つける。植物工場の増設で地域の雇用を創出する。そこに共通するのは働く人を第一に考える経営理念だ。

向陽アドバンスは、本業のウレタン断熱パネルで住宅用資材に参入するなど、果敢な商品展開を進めている。その勢いに支えられて、東北の地に新たな植物工場のブランドが確立する日も近いだろう。

(注釈)

*電源地域振興促進事業費補助金

取材日 2011年2月

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