普段使いの器からさまざまなオブジェまで、色と造形の美しさが際立っています(写真提供:海馬ガラス工房)

砂の記憶をよみがえらせる海馬ガラス工房

[宮城県-仙台市]

 仙台の奥座敷・秋保温泉にほど近い緑豊かな林の中に「海馬ガラス工房」はあります。2014年、「仙台観光アンバサダー」に就任した羽生結弦選手に贈られたグリーンの記念トロフィーは、この工房のオーナーでガラス工芸作家の村山耕二さんの作品です。
 同工房では、東日本大震災後、沿岸被災地の砂を使ってトンボ玉をつくり、地域の方々に贈る取り組みもしています。
 村山さんにガラスという素材が持つ魅力や原料となる砂をめぐるお話を伺いました。

砂で変わるガラスの色

 「羽生選手に贈られたトロフィーのガラスには、仙台地下鉄東西線工事で広瀬川を採掘した際に出た砂を使いました。広瀬川の砂の色味に比べると、少し明るく、より緑色が増し、杜の都にふさわしい感じになったと思います」と村山さん。
 村山さんはその前年、広瀬川改修工事で排出された川底の砂を使い、江戸後期につくられていた仙台ガラスをモチーフに、褐色がかった渋い緑色の新しい仙台ガラスを考案。デザインとディレクションを担当した「仙台ガラスコレクション」はグッドデザイン賞を受賞しています。
 着色料を使わなくても、砂に含まれる鉱物などの違いによってガラスの明るさや色合いが変わってくるといいます。
 「砂の採取場所によって成分が異なるため、溶けた砂が冷え固まる直前までどんな色のガラスになるか予測が不可能なのです。そこがガラスの面白いところであり魅力でもあります」。

羽生選手に贈られた躍動感あふれる記念トロフィー(写真提供:海馬ガラス工房)

羽生選手に贈られた躍動感あふれる記念トロフィー
(写真提供:海馬ガラス工房)


2013年 グッドデザイン賞を受賞した「仙台ガラスコレクション」(写真提供:海馬ガラス工房)

2013年 グッドデザイン賞を受賞した「仙台ガラスコレクション」
(写真提供:海馬ガラス工房)


【ガラスのつくり方と形成方法】

 ガラスにはさまざまな種類があり、その種類によって成分が異なります。一般的なガラスは、珪砂(けいしゃ)と呼ばれるものが使われます。珪砂は石英という鉱物が砂状になったもので、ガラスはこの珪砂(約7割)にソーダ灰(ばい)と石灰石の3つを混ぜあわせてつくります。公園の砂をよく見るとキラキラと光るものがありますが、それが珪砂です。
 このような材料をおよそ1,400℃以上の高温の釜の中でどろどろに溶かします。それを釜から取り出し、パイプの先につけて空気を吹き入れながら形を整える「宙吹き(ちゅうぶき)」などの製法があります。

釜の中でガラスがどろどろに溶けています

釜の中でガラスがどろどろに溶けています

パイプで空気を入れる「宙吹き」

パイプで空気を入れる「宙吹き」

サハラ砂漠の砂を使った「サハラガラス」の誕生

 2001年にモロッコ政府観光局主催のエコツアーでサハラ砂漠を訪れた村山さんは、「砂漠化という環境問題に対してアーティストとして何かできないか」と問われ、サハラ砂漠の砂を使ったガラスをつくることを思い立ったといいます。その後、約2年の歳月をかけ、サハラ砂漠の砂を使って仕上げたのが、淡い緑色の「サハラガラス」でした。2007年にはモロッコ王国の現国王であるムハンマド6世へ作品を献上しています。
 「赤く広大なサハラ砂漠。その砂を溶かしてみると、太古に若草で覆われていた記憶がよみがえったかのような緑色のガラスになったのです」。
 村山さんはその後も、日本各地の河川の砂やイタリア、モンゴル、ブラジルなど、世界各地の砂を使ってガラスをつくる試みを重ねています。
 「国内47都道府県の川の砂と、世界に46カ所ある砂漠の砂でガラス作品をつくりたいですね」。

右端のボトルに入っているのがサハラ砂漠の赤い砂

右端のボトルに入っているのがサハラ砂漠の赤い砂


<サハラガラスの作品例>

サハラ砂漠の赤い砂がガラスになるとこのような淡い緑色に変わります

サハラ砂漠の赤い砂がガラスになるとこのような淡い緑色に変わります

被災地の砂でつくったガラス玉

 東日本大震災後、南三陸町や七ヶ浜町などの沿岸被災地で、地域の人たちが思い入れのある場所の砂や土を持ち寄り、それを村山さんが溶かしてトンボ玉をつくる「大地を融かすプロジェクト」と名付けた取り組みを行っています。
 「かさ上げすると埋もれてしまうような場所の砂などを持ち寄ってもらい、そこからトンボ玉をつくり、地域の方々に贈るプロジェクトです。出来上がったガラスの色の違いが、それぞれの故郷を象徴しているように思います。人々の記憶が、一握りの砂から生まれたガラスに溶け込んでいるのかもしれません」と村山さんは言います。
 記憶をつかさどる脳の部位「海馬」。工房名に込められた字義通り、海馬ガラス工房のこの取り組みは、被災地の人々の手に渡ったガラス玉を通し、長く記憶に残り続けることでしょう。

南三陸町のワークショップでつくられたトンボ玉 南三陸町のワークショップでつくられたトンボ玉

南三陸町のワークショップでつくられたトンボ玉
(写真提供/右:海馬ガラス工房)

【大地を融かすプロジェクトについて】

 海馬ガラス工房が始めたボランティア・プロジェクトで、2014年から3年間、南三陸町や七ヶ浜町の住民を対象に開催しました。
 自宅の基礎だけが残った土地や、かさ上げされる場所など、地域の人たちが思い思いの場所から砂を持ち寄り、村山さんの指導によるワークショップ形式でトンボ玉をつくるというもの。
 七ヶ浜町では、村山さんらは1000個を超えるトンボ玉をつくり、仮設住宅などに住む被災者へ配りました。

七ヶ浜町でのワークショップの様子 写真提供:海馬ガラス工房)

七ヶ浜町でのワークショップの様子
(写真提供:海馬ガラス工房)


被災地の人々の記憶が溶け込んだトンボ玉。左右とも七ヶ浜町のもの。浜によって色合いが異なります

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